広報活動を始めたばかりのスタートアップや中小企業にとって、「プレスキット」という言葉はまだ馴染みがないかもしれません。しかし、取材を受けたり、プレスリリースを出したりする際に、記者が「欲しい」と思う情報がひとまとまりになっているかどうかで、記事化のスピードや取材のしやすさが大きく変わります。
本記事では、取材がスムーズになる汎用的なプレスキットの基本要素から作り方、活用法までをわかりやすく解説します。広報初心者やひとり広報担当者でも今日から取り組める実践的なポイントを紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
※プロジェクトごとに専用のプレスキットを用意する場合もありますが、まずは大前提となる基本の作り方を押さえましょう。
プレスキットとは?広報活動に必須な理由
プレスキットは、メディア関係者(記者、編集者、ライターなど)に、自社の情報やサービス、製品をまとめて提供するための資料一式を指します。「メディアキット」と呼ばれることもあります。
従来は紙の資料を一つのフォルダにまとめて手渡しする形式が主流でしたが、今ではWebサイトに専用ページを作成したり、オンラインで共有したりする「デジタルプレスキット」が一般的です。
そして、プレスキットは、広報活動において非常に重要な役割を果たします。その理由は以下の通りです。
- 情報の統一と正確性の確保: メディアからの問い合わせに対し、毎回異なる情報を伝えたり、古い情報を提供してしまうリスクを減らせます。プレスキットに最新かつ正確な情報を集約することで、情報の混乱を防ぎます。
- 取材対応の効率化: 記者は、取材対象を探す際に、迅速に基本情報を把握したいと考えています。プレスキットがあれば、必要な情報を自分で見つけることができるため、いちいち企業に問い合わせる手間が省けます。これにより、取材依頼から掲載までのリードタイムを大幅に短縮できます。
- 掲載内容のコントロール: 提供する情報や写真、ロゴなどをあらかじめ整理しておくことで、メディアが誤った情報や不適切な画像を使用するリスクを減らせます。
プレスキットに何を盛り込む?必須項目を解説
プレスキットは単なる情報の羅列ではありません。メディアが必要とする情報を、見やすく、分かりやすくまとめることが重要です。ここでは、必ず入れておきたい必須項目と、それぞれのポイントを解説します。
必須項目リスト
- 会社概要:
- 会社名、所在地、設立年月日、事業内容、代表者名、連絡先(広報担当者の名前とメールアドレス、電話番号)
- 事業内容・ビジョン:
- 自社が何をしている会社なのか、どんな社会課題を解決しようとしているのかを簡潔に説明します。
- サービス・製品情報:
- 主要なサービスや製品の概要、特長、価格、ターゲット顧客、実績などを具体的に記載します。
- ロゴデータ:
- JPEGやPNGだけでなく、印刷向けのEPS形式も用意します。
- 高解像度写真・動画素材:
- 代表者の顔写真、製品・サービスのイメージ写真、オフィス風景など、メディアがそのまま使用できる高品質な素材を用意します。
- 代表者プロフィール:
- 代表者の写真、略歴、経歴、パーソナルな想いやビジョンを記載します。
- プレスリリース一覧:
- 過去に配信した主要なプレスリリースを、リンク付きで掲載します。特に最新のものは冒頭に配置しましょう。
作成のポイント
- 代表者プロフィール: 単なる経歴だけでなく、起業のきっかけや事業にかける想いをストーリー仕立てで書くと、記者の興味を引きやすくなります。
例:「私は大学時代に経験した〇〇をきっかけに、〇〇という社会課題を解決したいという強い想いを抱き、この会社を立ち上げました。」 - 高解像度写真やロゴ: 写真のファイル名には、内容がわかるように「会社名_サービス名_写真内容」のように付けておきましょう。 また、画像を提供する際は、ブランドガイドラインも添えましょう。ロゴや人物写真の誤用を防ぐため、使用ルールや禁止事項を明記しておくことが大切です。
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魅力的なプレスキットの共通点
プレスキットをただ作るだけでなく、メディアに使ってもらうためには「見つけやすさ」と「使いやすさ」が重要です。
良いプレスキットに共通する要素
- シンプルで分かりやすいナビゲーション: Webサイト上にプレスキットページを設ける場合、ヘッダーやフッター、または会社概要ページからすぐにアクセスできるようにしましょう。「Press」や「Newsroom」といった、メディア向けであることが一目でわかる名称にするとより親切です。
- 情報の整理とデザイン: 情報をカテゴリごとに整理し、見出しや箇条書きを効果的に使って、記者が短時間で必要な情報を見つけられるようにします。派手なデザインは必要ありませんが、ロゴやコーポレートカラーを使うなど、会社のブランドイメージを統一しましょう。
- ダウンロードのしやすさ: 写真やロゴなどの素材は、一括でダウンロードできるZIPファイルを用意しておくと、メディアの手間を省くことができます。
プレスキット事例
IT系企業では、Web上で誰でもアクセスできる「デジタルプレスキット」を公開し、写真や素材をダウンロードできるようにしています。
▼Sansan株式会社
https://jp.corp-sansan.com/inquiry/presskit
▼株式会社SmartHR
https://smarthr.design
プレスキットの作成手順と注意点
プレスキットは「作って終わり」ではありません。作成したプレスキットをどう活用するかが、広報活動の成否を分けます。
プレスキットをどのようにメディアに提供するか
- Webサイトへの常設: これは最も基本的な方法です。Webサイトの目立つ場所にリンクを設置することで、記者がいつでもアクセスできるようにします。
- メールで送信: 取材の依頼を受けた際や、プレスリリースを配信する際、メールにプレスキットのURLを記載しておきます。
- 印刷配布: 展示会や交流会などで記者と出会った際には、プレスキットのURLや二次元コードを記載したリーフレットを渡すとスムーズです。
取材依頼への対応をスムーズにする活用法
プレスキットは、取材依頼への対応を劇的に効率化します。
メールの返信で「詳細な情報はこちらのプレスキットをご参照ください」など、URLを伝えるだけで、記者はすぐに必要な情報にアクセスできます。これにより、個別の情報提供にかかる時間を大幅に削減し、より本質的なコミュニケーションに時間を割くことができます。
デジタルプレスキットと紙プレスキット、どちらを選ぶ?
現代の広報活動では、デジタルプレスキットが主流です。しかし、紙のプレスキットにもメリットがあります。
デジタルプレスキットのメリット・デメリット
- メリット:
- リアルタイムでの情報更新が可能
- 印刷コストがかからない
- URLを共有するだけで簡単に提供できる
- アクセス解析が可能
- デメリット:
- インターネット環境が必要
- デザインやWebサイトの知識が多少必要になる
紙プレスキットのメリット・デメリット
- メリット:
- 展示会やイベントで直接手渡せる
- 物理的な資料として印象に残りやすい
- デメリット:
- 印刷コストがかかる
- 情報が古くなりやすい
- 郵送や持ち運びの手間がかかる
おすすめは、デジタルプレスキットを基本とし、特別なイベントやメディア向け交流会などでは、補足的に紙の資料を用意する方法です。デジタルプレスキットは情報の更新が簡単で、多くの人に素早く届けられるため、広報活動の効率を大幅に高めることができます。
プレスキット作成のよくある悩みと解決策
「プレスキットを作るって言っても、何から始めればいいかわからない…」「デザインの知識がないから、きれいに作れるか不安…」
こうした悩みを抱える広報担当者の方は少なくありません。以下に具体的な解決策をご紹介します。
悩み1:「何から始めればいいか分からない」
解決策: まずは、自社の情報をとにかく集めることから始めましょう。
- Webサイトの会社概要ページ
- 会社紹介資料や営業資料
- 代表者の履歴書やインタビュー記事
これらを参考に、テキストベースで情報を書き出してみてください。完璧を目指さず、まずは「たたき台」を作る気持ちで取り組むことが重要です。
悩み2:「デザインに自信がない」
解決策: デザインの知識がなくても、以下の方法でプレスキットは作れます。
- デザインツールを活用する: Canvaなどのデザインツールには、テンプレートが用意されています。これを使えば、誰でも簡単にプロのような資料を作成できます。
- 既存の資料を活用する:社内で使っているロゴ、写真、カラーガイドなどをそのまま流用すれば、統一感のあるプレスキットを簡単に作れます。
- 必要に応じてプロに依頼する:予算に余裕があれば、デザイナーに依頼するのも確実な方法です。レイアウトや写真選定など、専門家の目で仕上げてもらえます。
悩み3:「更新作業が大変そう」
解決策: プレスキットの更新は、定期的かつ計画的に行うことが大切です。
- 更新日を決める: 四半期に一度、半期に一度など、定期的な更新日を設けて、カレンダーに登録しておきましょう。
- 情報変更のルールを設ける: 新サービス発表時や役員変更時など、情報が更新された際に広報担当者に通知が届くような仕組みを作ると、更新忘れを防げます。
まとめ
プレスキットは、単なる資料集ではなく、取材をスムーズにし、メディアとの信頼関係を築くための重要ツールです。スタートアップや中小企業にとって、広報のリソースが限られる中で最大限の効果を発揮できる武器になります。
まずは小さく始め、徐々に内容を充実させていくことが大切です。記事化のチャンスを逃さないために、ぜひ今日からプレスキット作成に取り組んでみてください!