「広報の重要性は理解しているけれど、何から手をつければいいかわからない…」 「専任の担当者を置く余裕なんてないし…」
スタートアップや中小企業の経営者様の中には、このような悩みを抱えている方が少なくないのではないでしょうか。日々、事業の成長に奔走する中で、広報活動まで手が回らないのは当然のことかもしれません。
しかし、広報の経験がなくても、会社の“最強の武器”になるものが、経営トップの中にすでに存在します。
それは、経営者自身の“語り”、すなわち「トップメッセージ」です。
この記事では、広報の専門知識がない経営者様でも、ご自身の想いやビジョンを、社内外に響く強力なメッセージへと昇華させるための具体的な方法を詳しく解説します。各ステップで具体例や少し踏み込んだコツもご紹介しますので、ぜひ自社に置き換えて考えてみてください。
トップメッセージはなぜ重要なのか?
経営者の言葉は、会社の「顔」であり「心」です。特に、スタートアップや中小企業のように知名度がまだ高くない企業では、経営者が発信する言葉が、初めて接点を持つ相手に与える印象を大きく左右します。
トップメッセージは単なる挨拶文ではなく、「会社の方向性」「存在意義」「信念」を外部に伝える戦略的資産です。
あなたの会社にも、きっと「語るべき理由」と「伝えるべき未来」があります。それを言葉にして外に届けることが、広報活動の第一歩です。
トップメッセージが活きる場面と効果
では、磨き上げたトップメッセージは、具体的にどのような場面で活かすことができるのでしょうか。ここでは、日常業務から重要な経営判断の局面まで、トップメッセージが効果を発揮する様々なシーンを、ありがちな「もったいない例」と合わせて「社内」と「社外」の2つの側面からご紹介します。
これらの場面を意識するだけで、あなたの“語り”が持つ力を最大限に引き出すことができます。
【社内向けの活用場面】
場面 | 活用方法 | 期待できる効果 | もったいない例 |
---|---|---|---|
全社会議・キックオフ | 事業計画や目標を伝える際に、その背景にある想いやビジョンを自分の言葉で熱く語る。 | 従業員の当事者意識を高め、組織全体のベクトルを合わせることができる。 | 数字の進捗報告だけで終わり、従業員が「やらされ感」を感じてしまう。 |
朝礼・定例ミーティング | 日々の業務連絡だけでなく、会社の理念に繋がるようなミニストーリーや気づきを共有する。 | 理念が日常業務に根付き、従業員の行動指針となる。 | 業務連絡と連絡事項の共有のみで、マンネリ化している。 |
社内報・イントラネット | 定期的にコラムや動画メッセージを掲載し、経営者の考えや人柄、時には悩みも伝える。 | 経営者と従業員の心理的な距離を縮め、風通しの良い組織文化を醸成する。 | 更新が滞り、誰も見なくなってしまう。 |
1on1ミーティング | 従業員と対話する際に、会社の方向性と個人のキャリアプランを結びつけながら、本人の考えや可能性を引き出す。 | 従業員の成長を促し、リテンション(人材定着)率の向上に繋がる。 | 単なる業務の進捗確認の場になってしまっている。 |
新入社員研修 | 経営者自らが登壇し、創業の想いや会社の歴史、未来のビジョンを直接語りかける。 | 新入社員のロイヤリティを高め、早期離職を防ぐ。 | 人事担当者に任せきりで、経営者の顔が見えない。 |
【社外向けの活用場面】
場面 | 活用方法 | 期待できる効果 | もったいない例 |
---|---|---|---|
公式ウェブサイト(代表挨拶) | 定型文ではなく、事業への情熱や顧客への想いが伝わる、人間味あふれるメッセージを掲載する。 | 会社の「顔」として訪問者に信頼感と親近感を与え、ブランドイメージを向上させる。 | どこの会社でも言える定型文が何年も更新されていない。 |
プレスリリース | ニュースの背景にある経営者の想いや社会的な意義をコメントとして加える。 | メディアの目に留まりやすくなり、深みのある記事として取り上げられる可能性が高まる。 | 「新製品〇〇を発売します。ぜひご期待ください」という事実だけのコメントで済ませてしまう。 |
採用説明会・採用サイト | 会社の未来や求める人物像について、自らの言葉で学生や求職者に熱く語りかける。 | 企業のビジョンに共感する、意欲の高い優秀な人材を惹きつけることができる。 | 待遇や福利厚生の説明に終始し、働くことの「意義」が伝わらない。 |
営業・商談の場 | 製品やサービスの説明に加えて、なぜこの事業を始めたのかという「創業ストーリー」を語る。 | 顧客との感情的な繋がりを生み出し、価格競争から脱却した「選ばれる理由」を創出する。 | 機能と価格の説明だけで、製品の背景にある想いを語らない。 |
メディア取材 | 取材の機会には、用意された回答だけでなく、自身の経験や失敗談も交えながら、一貫したメッセージを語る。 | 記事に深みと信頼性が増し、企業の認知度向上とブランディングに大きく貢献する。 | 広報担当者が作成した想定問答集を読み上げるような対応をしてしまう。 |
危機管理(クライシス対応) | 不祥事やトラブルが発生した際に、経営者自らが誠意をもって状況説明と謝罪、再発防止策を語る。 | 真摯な姿勢が伝わり、ダメージを最小限に抑え、信頼回復への第一歩となる。 | 担当者任せにしたり、文書での発表のみで済ませたりして、トップの姿勢が見えない。 |
このように、トップメッセージは「特別な時に語るもの」ではありません。日々のあらゆるコミュニケーションの場で一貫して語り続けることで、そのメッセージは徐々に社内外に浸透し、やがては強固な企業文化とブランドを形作っていくのです。
トップメッセージを紡ぎ出すための準備
「さあ、語ってください」と言われても、何から始めればよいか迷うものです。
心に響くメッセージは、一夜で生まれるものではありません。経営トップ自身の内面を掘り下げ、誰にどう伝えたいのかを見据える——その丁寧な準備の積み重ねが必要です。
ここでは、トップメッセージを形にしていくための3つのステップをご紹介します。
ステップ1:自分自身への問いかけ(自己分析)
以下の問いに自問自答してみてください。思いつくまま書き出してみましょう。
- 【Why】なぜこの事業なのか?どんな課題や原体験が背中を押したのか?なぜ他の道ではなく、あえてリスクを取ったのか?
- 【What】事業で何を成し遂げたいのか?5年・10年後の姿は?会社が無い世界は何を失うのか?社会・顧客へ届けたい価値は?引退後も残したいものは?
- 【How】譲れない価値観は?どんな仲間・チーム像を望むか?顧客とは売り手買い手か、それともパートナーか?
この作業は、いわば「自分史の棚卸し」です。創業時の熱い想いや、日々の業務に追われる中で忘れていたかもしれない情熱を再発見する、貴重な機会になるはずです。
ステップ2:伝えたい相手を思い描く(他者分析)
次に、「誰に」そのメッセージを届けたいのかを具体的にイメージします。メッセージは、相手によって響くポイントが異なります。
- 従業員:誇りと前進を後押しする言葉は?生活・キャリアへの責任をどう語る?
- 顧客:機能以外にどんな感情価値(安心・喜び・自己実現)を提供したい?
- 未来の仲間:何が魅力で、どんな未来を共創したい?
- パートナー(取引先):なぜあなたと組むのか?共に成長する約束は?
ターゲットを具体的に思い描くことで、メッセージは独りよがりなものから、相手の心に寄り添う「対話」へと変わっていきます。
ステップ3:思考を整理し、言葉の種を見つける(言語化)
自己分析と他者分析で出てきた想いやキーワードを、具体的な言葉の“種”へと育てていきましょう。
まずは、付箋などに思いつく単語を書き出す「ブレインストーミング」や、キーワードを繋げて思考を整理する「マインドマップ」で、頭の中を整理します。
そして、最も効果的なのが、信頼できる第三者への「壁打ち」です。創業期の仲間、社外のメンター、あるいは事業を全く知らない家族や友人に、「会社の未来について考えているんだけど…」と、あなたの想いを率直に語ってみてください。
相手の表情や質問、相槌の中にこそ、あなたのメッセージのどこが人の心に響き、どこが伝わりにくいのかを知る貴重なヒントが隠されています。他者に話すことで、自分だけでは気づけなかった言葉の原石がきっと見つかるはずです。
トップメッセージを磨く3つのポイント
自分の中から言葉の“原石”を見つけたら、次はその原石を磨き上げ、多くの人の心に届く形へと仕上げていく工程です。
ポイント1:「具体性」で輪郭をハッキリさせる
「社会に貢献します」「お客様第一で考えます」「世界を変えます」といった抽象的な言葉は響きません。メッセージに命を吹き込むには、「具体性」が必要です。
- 数字や固有名詞を入れる
- 五感に訴える表現を使う
- 具体的なエピソードを語る
抽象的な理念を、具体的な情景が目に浮かぶような言葉に変換することで、メッセージは一気に血の通った、リアルなものになります。
ポイント2:「一貫性」で信頼を築く
会社のあらゆる活動や、経営者自身の言動と一致している「一貫性」がなければ、信頼を失ってしまいます。
- ミッション・ビジョン・バリューとの連動:語られるメッセージが、会社の根幹である企業理念としっかりと繋がっていることが大前提です。
- 過去から未来への一貫性:過去の発言や行動と、現在のメッセージが矛盾していないかを確認しましょう。もし方針転換があった場合は、その理由と経緯を誠実に説明することが、かえって信頼に繋がります。
- 言行一致(Walk the Talk):これが最も重要です。従業員や顧客は、経営者の「行動」を鋭く見ています。言葉と行動が一致して初めて、メッセージは本物の力を持ち、人々の心を動かすのです。
ポイント3:「情熱と独自性」で心を揺さぶる
ロジカルで正しいだけのメッセージは、頭では理解できても、人の心を動かすことはできません。心を揺さぶるのは、経営者自身の「情熱」と「独自性」です。
- 自分の言葉で語る:多少不器用でも、あなた自身の内から湧き出てくる言葉には、魂が宿ります。
- 弱みや失敗談を隠さない:完璧な成功物語よりも、困難を乗り越えた失敗談の方が、人は共感し、応援したくなるものです。
- 「あなたらしさ」を大切にする:ユーモアを交えるのが得意な方、静かに誠実に語りかけるのが得意な方、熱くビジョンを叫ぶのが得意な方。キャラクターは人それぞれです。「あなたらしさ」が滲み出るメッセージこそが、他社には真似できない、強力なオリジナリティとなるのです。
ストーリー化で“伝わる力”を高める
人を動かすのはロジックではなく「ストーリー」です。経営者の想いやビジョンを物語として語ることで、トップメッセージは強く印象に残ります。
ここでは、シンプルで使いやすい「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」と呼ばれる神話の法則をベースにしたフレームワークをご紹介します。
- 日常と課題の発見:創業前や社会にあった「当たり前」から、解決すべき課題を見つける。
- 冒険の始まり:起業という挑戦を決意し、資金難や失敗といった壁に直面する。
- 試練の克服:仲間や支援者と出会い、危機を乗り越える中で学びや気づきを得る。
- 未来への帰還:その経験を糧に会社がどう変わり、どんな未来を目指すのかを示す。
この流れを取り入れると、聞き手は経営者の想いを「体験」として受け取れます。
トップメッセージを単なる理念の宣言に終わらせず、挑戦や葛藤を含む物語として語ることで、聞き手はよりリアルに共感し、そのビジョンを応援したいと思うようになるのです。
さらに、同じエピソードを社内外で繰り返し語ることで、言葉は研ぎ澄まされ、表現も自然と洗練されていきます。スタートアップでも中小企業でも、取材や朝礼などで話を重ねるうちに、話術が格段に上達していく経営者を多く見てきました。まさに「繰り返し」が、トップメッセージを磨き上げる秘訣なのです。
トップメッセージの発信チャネル活用術
どれほど磨き上げたメッセージも、届けたい相手に届かなければ意味がありません。大切なのは、ターゲットや目的に合わせて「発信チャネル」を戦略的に選び、組み合わせることです。主なチャネルは次の3つです。
1. オウンドメディア(自社媒体)
自社で管理できる公式サイトや社長ブログは、継続的な発信拠点です。SNS(X, Facebook, LinkedIn)は双方向性が強く、経営者個人の発信が人間味を伝えます。動画(YouTubeなど)は、文章では伝わりにくい熱量を届けるのに有効です。
2. ペイドメディア(有料広告)
費用をかけて確実に届ける方法です。記事広告やタイアップは、第三者の視点を通じて信頼性を高め、自然なブランディングにつながります。
3. アーンドメディア(信頼で獲得する露出)
プレスリリースや取材による記事掲載は、発信チャネルの中でも特に信頼性が高く、大きな影響力を持つ手段のひとつです。社長コメント欄はトップメッセージを伝える絶好の機会。定型文ではなく、毎回自分の言葉で語ることが大切です。
◎チャネルミックスで効果最大化
単独ではなく、相互に連動させることが成功の鍵です。
例:ブログで詳細を語る → SNSで拡散 → プレスリリースで報道機関に発信 → 記事化されたら再び自社メディアで紹介。こうした流れで、信頼性と影響力を高められます。
定期的な見直しとアップデートの重要性
会社は生き物であり、市場や社会も常に変化しています。トップメッセージもまた、その成長や環境変化に合わせて定期的に見直し、進化させる必要があります。
見直しのタイミング
- 新規事業や製品の開始時
- 資金調達やM&Aなどの節目
- 社会情勢の変化があった時
- 事業年度の始まり
- 中期経営計画の策定時
アップデートの方法
- 浸透度を確認:社員アンケートやヒアリングで、メッセージが正しく理解されているかを把握。
- 環境を再分析:市場や社会の動き、自社の強み・課題を再確認。
- 変える部分と守る部分を区別:
- 変えてはいけない根幹=パーパスやコアバリュー
- 柔軟に変えるべき部分=時代に合わせたビジョンや戦略
- 背景と共に発信:なぜ変えるのかを丁寧に伝えることで、社内外の理解を得る。
まとめ
広報やブランディングというと、何か特別なスキルや多額の費用が必要だと感じてしまうかもしれません。しかし、その本質は、「自分たちが何者で、どこを目指しているのか」という想いを、誠実に、そして情熱的に伝え続けることに他なりません。
その想いの最も純粋な源泉を持っているのは、経営者自身です。
経営者の言葉には、従業員の心を奮い立たせ、お客様をファンに変え、社会を動かすほどの力が秘められています。
あなたの「語り」が、会社の未来を変える第一歩になるはずです!